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春は仕事が忙しく、それに加えて花粉が飛ぶ。
夏はファイの天敵で、今年も腐った魚のような目をしていたら無事に夏が過ぎ去った。夏休みが終わり九月に入ると涼しくなり、その頃になると腐った目をしていたファイの瞳が生き生きと輝きはじめる。ファイの大好きな秋がやってきたのだ。中でも甘栗がこの上もなく好きらしく、綺麗な爪を汚してまでもぱくぱくと飽きることなく食べていた。
つい先日、この学園都市では珍しい丹波栗がスーパーに並んでいて、迷うことなく千円の袋に詰められた甘栗を買って帰ると、はじめて見るその大きさに何これなんでこんなに大きいの、と首を傾げてまずいぶかしんだ。
剥いて口に放り込んでやるともごもごとその大きな栗を咀嚼し、味わうにつれてファイの蒼い瞳がキラキラと輝き出し、飲み込んだと同時に黒たん大好き!と飛びつかれた。
それからひとりで飽きることなく袋の中に手を突っ込み、栗を剥くときの作業歌であるどんぐりころころの歌を歌いながら、はじめて味わう栗の王者にファイはひとり盛り上がっていた。
その時のファイの顔を思い出し、黒鋼はおかきを食べながら目の前で無心に数独を解いていくファイのつむじを眺めた。
そのつむじにふらりと手を伸ばし、ぐいぐい押すと邪魔、と手を払われる。その冷たい返事にファイが今ひどく集中していることを確認すると、のったりと黒鋼は立ち上がった。
手にしていたおかきを口に放り込み、ぺったりと座り込んでいるファイの背後に移動すると黒鋼も座り込む。そしてぐいとその痩身を引き寄せ、腹に手を回すと黒鋼もファイの手元を覗き込んだ。
ぼりぼりと口を動かしながら耳元でなにしてんだよ、と問うと先ほどまでさらさらと動いていた左手が止まり、気が逸れたファイがむっつりと続ける。
「・・・・・・きみに触られたら集中できない」
ぽいとペンを放すと、むっつりと黒鋼を睨んだ。そして首を傾げ、もぐもぐと動いている口に問うた。
「なに食べてんの?」
「辛口チーズおかき、のりわさび味」
目の前にあるパッケージに書かれた文字をそのまま読むと、即座に、つ、とファイの眉が寄せられた。
「・・・・・・えー」
「ぴりっとしてうまいんだよ」
「やだ。オレ、わさび嫌いだもん」
「わさび食ったことねぇだろうが」
黒鋼の言葉にしばしファイがじっと考え込んだ。
そしてあれ?という言葉とともにファイがまた小首を傾げる。
「ほんとだ、わさび食べたことないかも」
そう続けるとファイは口を大きく開き、黒鋼の口に齧りついた。
先ほどまで食べていたわさびの味を探しているのか、ファイの薄い舌が黒鋼の舌を絡めとり、ちゅうーと吸う。いつものファイの舌の吸い方に黒鋼が喉の奥で笑うと、黒鋼もしっとりとファイの身体を抱きしめた。
涼しくなったとは言えまだ日中は暑い。こうして抱き合っていても少し熱い。痩身を抱いていた腕を放し、いつもファイが着ている半そでから手を入れ白い肌を撫でると急に空腹感を覚え、黒鋼も薄い舌をじっくりと食んだ。
そういえば、ファイと一緒に食事をとるようになった最初の頃は、食べる傍から次から次に出てくる料理の多さに正直辟易していた。
出されたものは残さず食えと育てられた黒鋼は出されるものをすべて平らげていたのだが、それでも多すぎる。そしてファイは食事の最中も忙しなく料理を作り、ふたりでゆっくり食事をとりたいのに目の前はいつも空席で、ファイが料理を口にするのは黒鋼が大方食べ終わった後のことだった。
ある日そんなに作らなくても良い、おまえも座って食えと言うと、蒼い瞳が大きく見開かれた。おなかすくでしょ?と問われ、誰がこんなに牛みたいに食うかと呆れると、え、そうなの?と驚かれた。
黒たんおっきいからおなかが空くと思っていっぱい作ってたんだけど多かった?と多い食事の理由を初めて聞いた時のなんともいえない幸福感をまた思い出し、黒鋼はまたファイの身体をじっくりと撫でた。